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ペプチド・天然リガンドに基づく新規リード探索

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Stuart Firth-Clark†

†Cresset, New Cambridge House, Bassingbourn Road, Litlington, Cambridgeshire, SG8 0SS, UK

 バーチャルスクリーニングの計画と実施の鍵は、検討中のターゲットのできるだけ多くの情報を活用し、可能な限り広くケミカルスペースを探索し、その結果、購入する化合物を効果的に決定することです。ここでは、FOXOペプチドの代替となる可能性のある低分子化合物を見つける研究事例を取り上げます。そのために、Blaze™によるリガンドベースのバーチャルスクリーニングとFlare™によるタンパク質構造情報を合わせて活用します。

はじめに

 生体高分子の構造情報をターゲットとした創薬プロジェクトにおいて、そのとるべきアプローチは関与する結合パートナーの種類によって大きく異なります (図1)。最も一般的な手法は、構造既知のレセプターの結合部位を鋳型としてリガンドを当てはめていく方法です。しかしながら、低分子との相互作用を期待できる機能的構造がなく、核酸 (DNAやRNA) や蛋白などの他の生体分子との相互作用をするものも数多く知られています。このような系では多くの場合、蛋白質間の相互作用が2つの蛋白質の広い表面積にわたって発生しています。2つの分子間の相互作用エネルギーは、結合部位などの小さな領域に集中するのでなく、大きな表面上の多くの弱いコンタクトの集合です。これに対して、大きなタンパク質に強く結合するだけの十分な相互作用を作ることのできない低分子では、表面積を伴う相互作用をターゲットとすることは一般的にとても困難です。

Figure 1_Possible partners for protein target X

図1. 標的タンパク質Xの結合パートナー.

 それでも、PPI界面の小さな特定の領域が全体の結合エネルギーの中に大きな割合を占める場合もあります。それを見つけ出すために、ラボではいくつもの小さなペプチドプローブを使い、広い範囲の中からより重要な結合領域を見つけようとする研究も活発に行われています。結合全体の中で比較的ウェイトが高くかつ体積的に小さな領域を見つけることができれば、その領域を標的化することが可能だと考えられます。

 標的の領域が特定されれば、次の段階は、元のペプチドを「模倣」する可能性のある低分子を探索することになります。その1つのアプローチはバーチャルスクリーニングであり、結合領域に関する情報を活用し、標的領域と良好な相互作用が可能な低分子を探索します。CressetのバーチャルスクリーニングプラットフォームであるBlazeを利用し、クエリであるペプチドの静電・疎水性・ファンデルワールス力のポテンシャル場に類似する場を与える市販化合物の探索を、以下に解説します。

フォークヘッドボックスタンパク質 (FOXO) に代わる低分子の探索

 FOXOはN-末端にDNA結合ドメインをもつ一連の転写因子であり、14-3-3蛋白を含む様々な蛋白質パートナーを認識します。FOXO1を失うと糖尿病などの代謝性疾患を惹起する可能性があり、FOXO3はさまざまな腫瘍との関係が知られ腫瘍の血管新生の促進やアポトーシスに関与しています。それ故、FOXO蛋白ファミリーは創薬プロジェクトにとって格好の標的セットであるように思われますが、その重要な相互作用はDNAなどの他の生体高分子との相互作用であり、低分子の標的としてはたいへん難しいものと思われます。

 本事例では、まずFOXO蛋白に関する情報を検索することから始めました。低分子で既知のものはもちろん見つかりませんでしたが、FOXOは転写因子タンパク質であるためDNAと結合します。UniProtでシーケンスを検索したところ、FOXOファミリーのタンパク質の有益そうなPDB結晶構造が複数見つかりました。

DNA結合ドメインを標的に

 手に入るFOXO蛋白とDNAの複合体構造を、Cressetの創薬プラットフォームであるFlare上で、DNA結合ドメインで重ね合わせました (図2a)。これにより、低分子サイズの分子がFOXO蛋白に効果的に相互作用することができないことがはっきりした上に、潜在的な結合部位のサイズが非常に限られていることが示唆されました (図2b)。従って、従来のアプローチは通用せず、別の手法を検討せざるを得ません。

Figure 2_Align and superimpose the available crystal structures of the DNA-binding domain of the FOXO protein family

図2. (a) Flareによる蛋白結晶構造のシーケンスアラインメントと重ね合わせ。(b) バーチャルスクリーニングには不向きな小さなポケット.

14-3-3認識サイトを標的に

 14-3-3蛋白はFOXO蛋白の結合パートナーでもあり、FOXO蛋白上でその認識部位はN-末端の近くにあります。14-3-3蛋白は多くは二量体であり、リン酸化されたペプチドを認識し、FOXOの制御を行います。PDB構造6QZRでは、FOXOのリン酸化ペプチドフラグメントが14-3-3蛋白に結合しており (図3)、この構造をヒントにしたバーチャルスクリーニング戦略を立てることにしました。

Figure 3_6QZR crystal structure of the 14-3-3 protein with a phospho-peptide fragment of FOXO1

図3.FOXO1 (ピンク) のリン酸化ペプチドフラグメントを含む14-3-3タンパク質 (薄茶色) の結晶構造 (6QZR).

 14-3-3蛋白のFOXO結合部位を標的とし、結晶構造中のFOXOペプチドの構造的特徴からクエリーを生成し、Blazeによるバーチャルスクリーニングを行うというものです。そのために、FOXOペプチドの中央の4つの残基から、正電荷 (赤球)、負電荷 (青球)、疎水性 (橙球) と形状の特徴 (黄球) で示される重要だと考えられる特徴 (フィールドポイント) を抽出しました。

Figure 4_ Field points whcih describe the molecular features of the FOXO peptide

図4. FOXOペプチドの分子的特徴を説明するフィールドポイント.

 Blaze (WebポータルまたはFlareからのアクセス) のインターフェースでは、ファーマコフォアまたはフィールドポイントによる制約など詳細化された探索を行うことができ、特定の相互作用または機能的構造を重視する場合に有用です。また、サプライヤーなどの属性を加えたり、探索するデータベースを選択することができます。Cresset Blazeコレクションには、現在約2,000万化合物の探索用データベースが用意されています (図5)。

Figure 5_Set up Blaze input parameters from the Flare interface

図5. FlareインターフェースからのBlazeクエリーパラメーターの設定.フィールド/ファーマコフォア制約、サプライヤ指定、分子サイズなどの制限を加える.

 高スコアのヒット化合物はFlareに取り込まれ、14-3-3レセプターの構造とともに表示されます。14-3-3蛋白の構造はバーチャルスクリーニング時に直接的に利用されるわけではないのですが、クエリ自体が6QZR結晶構造から作られたものであるため、ヒット分子は14-3-3蛋白のアクティブサイトの枠内にうまくおさまります。

 高スコアのヒットを取り込み、Flareの中でその後の処理や解析を続けます (図6)。ポーズの歪みの大きすぎる分子は目視で除去したり、14-3-3蛋白へのドッキングを実施し、新しいリガンドの結合部位との静電的相補性 (Electrostatic Complementarity™) を調べるたりすることができます。さらに、TPSA、logP、Flexibilityなどの物理的特性でフィルターをかけ、購入対象を絞っていきます。ケミカルスペースが十分に広くサンプリングされていることが重要であり、FlareV5のリリースでは、ヒットをクラスター化し、よりケミカルスペースを確認することを容易にするなど、リガンドの選択を支援する機能を盛り込みます。

Figure 6_Graphic representation of the Flare features that can be used to guide selection of compounds obtained from a Blaze virtual screen

図6. Blazeバーチャルスクリーニングの結果をビジュアル化するFlareのグラフィック表現 (a) ドッキング (b) 静電的相補性、 (c) クラスタリング.

 図7はBlaze探索結果の例です。左上の分子 (1)はクエリペプチドであり、示されている例の多くは酸性の基を介してリン酸認識部位と相互作用しますが、一部の分子は相互作用することなく、より詳細に調べてみるとよいかも知れません (6,9)。

Figure 7_Some of the output from the Blaze virtual screen as shown in Flare

図7. Flare上のBlazeバーチャルスクリーニング結果の一部.

結び

 リガンドベース/構造ベースのアプローチを組み合わせることで、有益なターゲット情報を広く活用することができる優れたバーチャルスクリーニング戦略を設計することができます。よく設計されたバーチャルスクリーニングでは、核酸 (DNA・RNA) やタンパク質などの他の生体分子と相互作用する難度の高い挑戦的な標的の低分子ヒットを見つけ出すことも可能となります。

 ぜひBlazeによるバーチャルスクリーニングを体験してください

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